27室目は「源氏物語」をテーマに、水野卓史さんが2016年10月17日から制作をスタート、ホテルに滞在したり、通ったりしながら約1ヶ月間半制作を続け、2016年12月1日に完成いたしました。
水野さんは、戦前から現在に至るまで日本の広告界をリードしてきた資生堂宣伝部の元制作室長で、自らもイラストを描く一方、イラストレーション表現から現在の写真表現へと移る1960年代の化粧品広告、広告デザイン史の時代を牽引してきた立役者です。戦前戦後の日本の美意識を受け継ぎ、後生にバトンタッチしようと常に新しいテーマで挑戦を続けてきた水野さんが、ホテルのプロジェクトに共感し、平安中期の長編物語「源氏物語」を題材に客室を装飾しました。
「源氏物語絵巻」をイメージして、部屋全面大小5つの壁に貼られた大きな和紙。描かれたのは、桐壷、若紫、須磨、鈴虫など、水野さんご本人のイメージから生み出されたという源氏物語のシーンです。柔らかい女性表現を目ざし、多くの美女を描いてきた水野さんならではの、洗礼された優雅な世界、恋心に揺れながらも気品あふれる女性の美しさを表現しました。
アーティストルーム「源氏物語」では、平安時代の優雅な世界に想いを馳せ、ドラマチックな滞在をお楽しみいただけます。
スタッフからのおすすめコメント
Room #3127 | 完成:2016.12
この部屋を飾る「源氏物語」は日本が誇る文学作品、文化遺産です。この長編恋愛小説は、千年の昔、我が国の王朝華やかな平安時代にそこで働く紫式部という女性によって書かれました。やがて写本となり、その絵物語は「国宝」にもなっています。
主人公は皇子として生まれながら、その地位はきわめて不安定だった為、その劣勢を天与の資質をもって跳ね返していくお話しです。
稀有な美貌と文武両道、あらゆる才能に恵まれあやしいまでの魅力をもち、人並み以上の多感好色な皇子が美しい姫君との恋愛事件やその運命が緻密に描かれた、主人公「光源氏」を中心とする四代にわたる物語です。
さて、この表現をするのに、かねてから幾多の現代作家によって書かれたもの読むことを続けていましたが、それによってその全体像は頭に入りました。これを具体的に描くこの部屋の仕事となると当時の佇まいや色彩、形は掴みきれません。そこでこの物語を取り上げた著名な画家の作品を見たり、解説や図解を参考にしながら頭の中で整理してみました。その結果この物語は私にとっては「神話」であると感じました。
この部屋に存在する大小五つの壁は、見る人にとってどんなハーモニーが生まれるか、もちろん長編の絵巻の再現は不可能です。それらの条件を考えあわせて出来上がった作者のイメージであるとご理解くださるよう望んでおります。
水野 卓史
グラフィックデザイン、アートディレクション
イラストレイター ADC会員
大学時代からポスターカラーを水にうすめ、それをなんども重ねて柔らかい女性表現を目ざしてきた。
1963年、海外研修時にドイツで買い求めたロットリングを使って、このペンによるブラックアンドホワイトの世界で女性を描くようになった。