東海道

名もなき実昌

アーティストルームの 51室目は「東海道」をテーマに名もなき実昌さんが制作し、2026年3月に完成しました。

Room #3403  |  完成:2026.03

作家メッセージ

東海道とは、江戸と京都を結ぶ、日本で最もよく知られた道のひとつだ。
地図の上では一本の線に過ぎないこの道は、江戸時代において数多くの創作のモチーフとして親しまれてきた。名所を描いた絵、道中を綴った物語。移動が今ほど容易ではなかった時代において、旅は日常から切り離された、少し特別な行為だったのだと思う。
交通機関のない時代の旅は、基本的に徒歩だっただろう。
人々は長い距離を歩き、途中で足を止め、見知らぬ土地の風景を眺め、宿に身を預け、偶然居合わせた他人と言葉を交わした。予定通りに進まないことも多く、不便や不安も少なくなかったはずだ。それでもなお、旅が魅力的なものとして語り継がれてきたのは、目的地に着くこと以上に、「途中」に身を置く時間そのものが、人の感覚を大きく揺さぶったからではないだろうか。
思い通りにならない要素が積み重なることで、体験は均質化されず、固有の記憶として残る。
そうしたことを考えながら、僕はこの部屋の絵を描いている。
聞けば、アーティストが内装を手がけた客室の割り当てはランダムだという。
当初は、日本的なイメージを持ち、富士山を望むこのホテルが東海道沿いに位置していることから、自然とこの道をモチーフに選んだ。制作を進める中で、東海道を題材とした双六の存在を知ったことも、その選択を後押しした。駒を進め、時に休みながら目的地を目指すその遊びは、旅の過程そのものを象徴している。
こうした偶然や遊びの要素を織り込みながら制作したこの部屋には、いくつかの仕掛けが施されている。
それらは今後も変化していくだろうし、中には人に発見されないまま終わるものもあるかもしれない。だが、そうした偶然の出会いこそが、この部屋のひとつのテーマでもある。
それらの出会いは、通過するだけでは手に入らない。
旅の途中で足を止め、身体を休めるその瞬間に、ふと立ち現れるものだからだ。作品もまた同じように、早く辿り着こうとする視線からはこぼれ落ち、立ち止まり、時間を委ねたときに初めて姿を現すことがある。
この客室は、東海道の宿場町と同じく、
単に通り過ぎるための場所ではなく、
目的地へ向かう旅の途中で、人が歩みを緩め、身を休めるための場所だ。
旅という時間の流れの中で、立ち止まることによって意味を持つ場所。
ここで過ごすひとときが、長い道のりの途中に挟まれた、
ささやかな一コマとして、静かに記憶に残ることを願っている。

 

“日本の美意識が体感できる時空間”

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